放送大学と「食う寝る宇宙」

2020/10/13 19:01 に 山口文夫 が投稿


                                                                                                                      放送大学教養学部選科履修生/

茨城大学大学院理工学研究科複雑系システム科学専攻D2

玉置晋



「食う寝る宇宙」というのは、私の座右の銘である。「食う」「寝る」と同等に一生「宇宙」と関わっていきたい。昔の車のCMで歌手の井上陽水さんが発していた「食う寝る遊ぶ」というフレーズが基になっていたかと思う。今から20年ほど前。大学受験生の私は苦悩していた。私は、子供の頃から将来は宇宙に関する仕事に就くことを目指していた。その為、宇宙を学べる大学に行かなければならない(と信じていた)。昔から天文学を目指す人は「東京大学」「京都大学」「東北大学」が相場で、それに倣って東北大学を受験したが、不合格となり東京理科大学理工学部物理学科に入学した。入学当初、宇宙関係の研究室がなくて、「宇宙」の夢、終わったなと思っていたところ、テレビで天文学者の吉岡一男先生の「天体物理学入門」が流れていて、「放送大学で宇宙を学べるじゃないか」と気づいたのが、放送大学との出会い。当時は放送大学に入学はせず、本屋でテキストを買って、勉強していた。大学2年の時に、幸運にも宇宙物理学関係の先生が赴任されてきて、その先生の研究室への配属を目指すことになる。研究室配属の希望が通るかは、原則、成績順なのだが、私と同様に宇宙を学びたい連中がゴロゴロいる大学である。私の成績は当落線上の水準だったと思う。で、どうしたかというと、ボロボロになった放送大学の「天体物理学入門」のテキストをもって、研究室に行き、宇宙を学びたい熱意を先生に伝えたところ、無事に研究室に配属された。

宇宙の勉強をしている中で、「宇宙天気」という分野を知った。西暦2000年7月。ノストラダムスの大予言がはずれて、世の中が「ミレニアム」と騒いでいた頃である。恐怖の大魔王は降ってこなかったけれども、人工衛星が降下をはじめた。日本のX線天文衛星が太陽活動の活発化により、熱膨張した地球大気にブレーキをかけられて、制御不能になった。2001年3月2日に大気圏に突入して消滅した。この事故は、私の人生の岐路の一つとなった。今度は「宇宙天気」を学べる大学を探した。意外なことに地元の茨城大学に研究室があった。ちょうど地元茨城に戻りたいと感じていた事もあり、茨城大学大学院に進学した。ここで出会った恩師、野澤恵先生はその後の私にとってはキーパーソンとなる。

そして、2003年10月は私の人生最大のターニングポイントが起きる。「ハロウィン・イベント」である。太陽表面で起きた大爆発は地球を周回する人工衛星に深刻なダメージを負わせた。この事は私の人生にも大きな狂いを生じさせた。当時、日本の火星探査機の火星軌道投入失敗やロケットの打上げ失敗等か続き、日本の宇宙開発は再点検を余儀なくされた。宇宙開発の現場は人材を維持できなくなり、人材流出が起きる中で、宇宙関連企業の新規求人がなくなった。さらにバブル崩壊後景気が回復することはなく、本当に将来が見通せない時代だった。後に就職氷河期、ロストジェネレーションと呼ばれる世代である。そして、地元茨城での就職を考えていたこともあり、もはや宇宙で食うことは無理だと悟った。2004年に休学して地方公務員を目指すことにした。とはいえ、地方公務員試験では、自分の専門性で戦える分野はない。行政職を目指して法律や経済をかじりはじめるが、暗記中心の公務員試験勉強は肌に合わず、放送大学の授業で理解した。

しかし、市役所や県庁の大卒者試験にトライしたが、そう簡単には受からなかった。途方に暮れてハローワークの求人情報をながめていた。「急募:つくばで人工衛星運用(派遣)」という求人が目に飛び込んだ。2005年2月に気象衛星「ひまわり6号」が打上げられた。それまで、打上げ待ちとなっていた人工衛星達の打上げラッシュが始まった。しかし、宇宙開発の現場には既に人がいない。それゆえに、宇宙企業は派遣会社に人材供給を求めた。すぐに応募した。面接の席で、人工衛星の軌道に関する話題が出たので、求人票の裏紙を使って天体の軌道の基本法則であるケプラーの法則を説明した。これは、放送大学の「天体物理学入門」で勉強した内容である。結果として、それが採用の決め手となったらしい。そして、人工衛星の運用に関わる仕事をしながら、茨城大学大学院に復学し、宇宙天気が人工衛星の運用に与える影響に関連する研究で修士論文を書いて、理学修士を取得した。

放送大学入学

2015年度に前述の茨城大学 野澤先生の「宇宙天気」に関する面接授業があった。これがきっかけとなり、宇宙天気が社会に与える影響について研究を再開することを決めた。茨城大学の博士後期課程に行くことも検討したが、博士後期課程に耐えうるテーマ設定ができなかった。そこで、まずは放送大学大学院の修士課程で本テーマについてまとめる事にした。当時、放送大学大学院の天文学ゼミの担当教員は、前述の「天体物理学入門」の吉岡一男先生だった。偶然にも、野澤先生と吉岡先生がお仕事をご一緒しており、野澤先生を副指導教官とする研究体制について調整いただいた。2016年度に放送大学大学院修士課程を受験し、これに合格した。2017年度~2018年度に放送大学大学院で、修士論文「宇宙天気現象の社会インフラに対する影響に関する研究~ハロウィン・イベント後の宇宙天気災害の整理~」をまとめ、学術修士を取得した。これで博士後期課程での研究準備が整った。

2019年度より茨城大学大学院にて「宇宙天気防災」に関する研究をスタートした。長期履修制度を用いて6年間の計画で研究を遂行している。そして、災害をテーマに持続可能性(サステナビリティ)、復興(レジリエンス)、生存可能性(サバイバビリティ)を考察する上で、放送大学では参考になる授業がたくさんあり、選科履修生として在学している。また、放送大学茨城学習センターはサークル活動が活発である。例として、「数学共楽会」では、統計学的手法についてハイレベルな議論が進められている。「未来環境クラブ」ではSDGsに関する議論が進められている。これらの活動を宇宙天気防災研究にフィードバックすることを狙っている。

この様に、私の「食う寝る宇宙」人生は放送大学に支えられているといって過言ではない。

 

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