生物の進化 塩見 正衛
テレビで見たり新聞を読むと、「生物の進化」は、あたかも生物自身が考えて都合のいいように進化していくかのように思える。実際には、生物が自分の進むべき方向を考えて進路を決めることはない。
ある生物個体に環境からの刺激、あるいは自己刺激でその個体の生殖細胞内の遺伝子に突然変異が起こる。このような突然変異は大抵の場合、生存に不利な突然変異であから、突然変異を起こしていない周りの他の細胞によって淘汰されてしまう。突然変異は非常に低い頻度でしか起きないから、突然変異を起こした細胞の性質が集団の後代に伝えられる可能性は極めて小さい。まれに後代に受け継がれる突然変異のほかに、生物集団に変異をもたらす要因として、同類あるいは近縁の生物種が混入して交雑、遺伝子を交換する場合に起こる。
長い時間を経ると、集団内にはこのようにして生じた遺伝的変異が蓄積していく。その中で、生息している環境に適した遺伝子をもつ個体は沢山の子孫を残すことができ、適さない個体は少数の子孫しか残せない。もっている遺伝子によって残せる子孫の数に差が生じると、何世代が後には、その環境で子供を多く残せる遺伝子をもつ個体だけの集団に変化していく。このような過程を「選択」とか「淘汰」と呼び、結果として生き残った集団が進化した生物の集団である。
個々の生物個体で起こる突然変異には方向性がなく、全く偶然な方向へ起こる。中には、そのような突然変異は生存に無関係で、私たちには生物の外見からは観察できない方向に起きているものがある。いや、むしろほとんどの突然変異はその生物個体の生存や残す子孫の数に何の影響をももっていないそうだ。しかし、現在はDNAレベルの研究が進んで、どの遺伝子がどのように変化したかがはっきり分かるようになったので、環境によって全く影響を受けない進化も確認できるようになった。「中立説」と言われている。
今では、突然変異の頻度はかなり正確に計算できるようになってきた。従来、化石に頼っていた研究は、DNAの解析によって異なった生物への分岐、すなわち生物進化の道筋と年代を正確に理解できるようになってきているのである。